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神戸地方裁判所 昭和61年(レ)73号 判決 1987年5月06日

控訴人 田中美里

右訴訟代理人弁護士 田中唯文

被控訴人 大谷善造

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ、昭和五五年一二月二〇日から右明渡ずみまで一か月金六六三八円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文と同旨の判決及び同第二項につき仮執行宣言。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している。

2  魚住公博は本件土地上に別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築したが、被控訴人は昭和五五年一二月二〇日同人から本件建物の信託的譲渡を受けてその所有権を取得し、以後本件土地を占有している。

3  本件土地の賃料相当額は、一か月金六六三八円を下らない。

4  よって、控訴人は被控訴人に対し、本件土地の所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地の明渡とともに、昭和五五年一二月二〇日から右明渡ずみまで一か月金六六三八円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は不知、同2及び3の事実は否認する。

本件建物の真の所有者は魚住であり、被控訴人は単に名義を貸したにすぎないから、本件土地を占有していない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は、《証拠省略》によりこれを認めることができる。

二  そこで、同2の主張について判断するに、《証拠省略》によれば、控訴人の夫正二は、同人と控訴人が経営していた有限会社田中牧場の負債の整理を魚住に依頼していたところ、魚住は昭和五五年六月ころ控訴人らに無断で本件土地上に本件建物を建築し、同人の兄吉田定雄の名義で同年一二月二二日所有権保存登記を経由したこと、魚住は本件建物を担保にして金融業者から金員を借入れようとしたが、自分の名前では借りられないため、同じ宅地建物取引業者である被控訴人に対し、その名において借入れすることを依頼したことから、被控訴人もこれに応じ、同年一二月二〇日ころ被控訴人の名において株式会社大阪ローン(以下「大阪ローン」という。)から金四五〇万円を借入れ、内金三〇〇万円を被控訴人自身が使用し、内金一五〇万円を魚住が使用したこと、そして、本件建物につき同年同月二二日受付をもって吉田定雄から被控訴人への同月二〇日売買を原因とする所有権移転登記を経由するとともに、大阪ローンのため債務者を被控訴人とする極度額金八〇〇万円の根抵当権設定登記が経由されたこと、これら本件建物をめぐる関係を明確にするため、昭和五六年一月一〇日被控訴人と魚住との間で覚書証(乙第一号証)が作成されたが、その書面中には、本件建物の所有者名義は被控訴人となっているが、実質は魚住の所有であり、したがって、魚住においてこれに課せられる税金を負担するのはもとより、魚住が被控訴人に対して所有名義の変更を要求したときは、被控訴人は異議なくこれに応じる旨の記載があるものの、一方、本件建物について設定された前記根抵当権に係る大阪ローンからの借入金については、各自の前記使用額に応じて被控訴人と魚住が責任を分担し、これ以外に本件建物を担保にして金員を借入れるときは、双方協議して承諾を得ること、また、本件建物を第三者に売却するときは、双方が相談協力して根抵当権を抹消する旨の記載があること、その後、魚住の求めに応じて、被控訴人は本件建物につき同年六月六日受付をもって金田孝のため同月五日売買を原因とする所有権移転仮登記を経由したが、本件訴訟係属後金田から右仮登記に基づく本登記の請求があったのに対し被控訴人は本件訴訟が係属していることを理由にこれを断ったこと、なお、大阪ローンからの前記借入金は未だ返済されておらず同社の申立により本件建物につき昭和五七年一二月二一日競売開始決定があり、同月二二日受付をもって差押の登記が経由されていること、以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右に認定した事実によれば、昭和五五年一二月二二日に本件建物につき吉田定雄から被控訴人に所有権移転登記が経由されたのは、大阪ローンからの借入れを被控訴人の名において行うためであり、魚住ないし吉田と被控訴人間にその対価の授受のあったことが窺われないことからすれば、本件建物の所有権は依然として魚住にあり、被控訴人に移転したものではなく、被控訴人は単に名義を貸したものにすぎないといわざるを得ない。

しかしながら、一方、被控訴人は、本件建物の所有者である魚住と意思を通じて登記簿上自らが本件建物の所有者であることの公示を作出し、かつ、本件建物につき大阪ローンとの間で根抵当権設定契約を締結したうえ、その借入金のうち三分の二に当たる金三〇〇万円は被控訴人自身が使用し、被控訴人と魚住との間において、本件建物を新たに担保提供するときや第三者に売却するときは協議する旨合意されていることなど前記認定の事実からすれば、被控訴人は単に名義を貸したというにとどまらず、自らも本件建物に対して一定の限度で支配権を有するものと認められ、したがって、本件土地の所有者である控訴人の責任追及に対して本件建物の単なる登記名義人であることをもって対抗することはできない。そうすると、被控訴人は本件土地上に在る本件建物に対して一定の権限を有することにより、本件土地を占有していると解して差支えなく、控訴人から本件建物収去土地明渡の請求を受ける地位にあるといわなければならない。

そして、被控訴人が本件土地を占有する権原については、何ら主張、立証がない。

三  弁論の全趣旨によると、本件土地の固定資産評価の比準価格は昭和五五年当時において少くとも五九万円余と評価されていることが認められるので、右認定の事実によれば、控訴人主張の請求原因3の事実を認めることができる。

四  以上のとおりであるから、本件土地の所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地の明渡とともに、被控訴人が本件土地の占有を開始したと解される昭和五五年一二月二〇日から右明渡ずみまで一か月金六六三八円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は理由があるから認容すべきところ、これと異なる原判決は不当であるから民事訴訟法三八六条に従い原判決を取消したうえ、控訴人の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条を適用し、なお、仮執行宣言の申立は相当でないのでこれを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂詰幸次郎 裁判官 萩尾保繁 石原稚也)

<以下省略>

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